刑の外国との比較
平成12年10月18日 弁護士 松 本 誠
日本の業務上過失致死罪の刑を外国と比較してみます。
日本では「死傷に致したる者は5年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金に処す」(刑法211条)となっています。
これに対し、フランス刑法典では次の通りです。
フランス刑法典第221−6[過失致死]
(1)不熟練、軽率、不注意、もしくは怠慢によって、または法律もしくは規則によって課される安全義務もしくは注意義務を怠り、他人を死亡させる行為は、故意によらない殺人とし、3年の拘禁刑及び30万フランの罰金で罰する。
(2)法律又は規則によって課される安全義務又は注意義務を意図的に怠る場合、刑は5年の拘禁刑及び50万フランの罰金とする。
日本の刑とこれを比較すると、罰金刑が自由刑(日本では懲役、禁固、フランスでは拘禁刑)と併合されるか、それとも選択によるかという点ではフランスでは自由刑との併合の刑となっており、自由刑も受け、かつ、罰金刑もあります。罰金刑のみというのは日本だけです。
しかもこれは被害者を死亡させた場合だけではなく、傷害でも同様であります。
法定刑の上限はフランスでも自由刑(拘禁刑)の上限は5年とされており、この点日本と変わりません。10年を上限とはしていないのは体刑や死刑を避けるという近代国家の刑の流れに沿うものでしょう。しかし日本と違うのは、罰金の額が最高で50万フランと高額となっていることです。平成12年の10月10日の時点でのフランスフランを円と換算すると、1フランスフラン=17円60銭ですから、交通事故で人を死亡させたら、フランスでは最高で880万円もの罰金となるのです。
交通事故で人を死亡させたら、最高で880万円の罰金となるのです。
しかもこれを支払えない時は自由刑を受けることとなります.。1日の自由刑を1日あたり5,000円くらいの評価をするとしたら、880万フランを支払えない時は約5年の自由刑を受けることとなります。無謀運転の付けは充分に加害運転者に回ってくるのであり、被害者の感情も納まりやすい制度となっているのです。時として見られる若者の暴走による無謀運転の付けは高く、罰金を支払えない場合には、本来の拘禁刑の刑に加えて、罰金を支払えない部分を別に自由刑として刑罰を受けなければならないのです。
これに対し、日本ではどうでしょうか。「懲役、禁固又は罰金」(刑法211条)となっており、罰金刑だけでもよいこととなっています。検察庁が起訴に関して非犯罪化政策をとっていることも起因して、日本では交通事故を起こしてもほとんどがせいぜい罰金で処理されているという実情があるのです。
このために例えば業務上過失致死傷罪として検挙受理人員68万人のうち、起訴されているのは8万3千人であり(約12%)、このうち罰金のみで終わっているのは7万8千人である(公判人員は約5千人)。以上は平成11年度犯罪白書のデータです。
人身事故を起こしてもほとんどが罰金で済んでいるのです。
日本においては交通事故犯罪の起訴率の甘さに加えて、刑の甘さが加害運転者のモラルの減退を招いているのではないでしょうか?
以上。