交通警察の業過事件の不当な運用と医療現場への不当な介入

第1「内部規定漏らし交通事故を軽く処理」という朝日新聞の記事が、平成12年2月21日にありました。次の通りです。

 静岡県浜松市内で4年前に起きた人身交通事故について、県警浜松中央署の署員が加害者に警察内部の処分規定を漏らし、これをもとに加害者が被害者のけがの程度を軽く書き直してもらった診断書を警察に提出したため立件されなかったことが、20日までにわかった。しかし、被害者の抗議を受けて同署が事故を再捜査し、加害者を業務上過失傷害容疑で書類送検した。
 同署は「内部規定を安易に漏らしたのは不適切な行動だった」としており、県警本部は全警察官を対象に、口頭で再発防止を指導する方針だ。
 事故は1996年暮れ、浜松市富塚町の交差点で起きた。近くの主婦(当時60)の自転車と同市内の整形外科医(同39)の乗用車が 出合い頭に衝突し、主婦はひざの骨にひびが入るなどのけがをした。 事故後、同市内の公立病院が出した被害者の診断書は「15日間の加療を要す」となっていた。これを加害者の男性が同署に提出したところ、応対した交通課の署員が「けがの程度が2週間以内で、 悪質性が低い場合は送検しない」という県警の内部規定があることを漏らした。男性は公立病院の医師に頼み、「約2週間の加療」と書き直した診断書を再提出。同署はこれを受理し、立件を見送った。
 しかし、主婦のけがは完治までに約8カ月かかり、「軽微な事故として処理されたのはおかしい」として、同署に加害者の処分を申し立てていた。
 これを受けて、同署は98年12月に実況見分をやり直し、男性を静岡地検浜松支部に書類送検。男性は昨年4月、浜松簡裁から罰金30万円の略式命令を受けたほか、30日間の免許停止処分となった。

 この事件は交通事故の警察の処理が放漫な裁量の雰囲気で処理されている事を端的に示しています。内部規定をもらした事を警察は問題にしていますが、遺族から見ると問題点はもっと大きいのです。

第2 問題点。

  「2週間以内の診断書が初動捜査で出れば警察は送検しなくとも良い」のです。
 実際、8ヶ月の傷害でも警察限りで終わり。こんな事をだれが決めたのでしょうか。

1 【検察の過ちが先にあること】

 検察庁は昭和61年に当時の東京高検検事長前田宏(後に検事総長)が伊藤検事総長の承諾を得て、3週間以内の傷害は業務上過失傷害として起訴しないことをきめたのです。ちなみにこの人物はその前は事務次官でした。行政畑の出身です。
 全国の地検が唖然とし、現場の副検事が嘆きました。過失の如何に関わらず、一定の傷害以下を一律不起訴にするという検察運営のどこに、命を守るという検察の理念があるのか? 3週間以内の傷害で過失を問わないとすれば、事件は右から左へ片付くが、それで良かったといえる喜びがあるのか?
 警察もまたどうせ不起訴なら捜査しなくても良いということになるのでないか? 現場の副検事からはこのような大きな疑問が出ました。
 しかしながら、結果として61年に検察は使命感を放棄し、また警察も使命感を喪失してしまいました。命を守る使命です。

2 【警察の現場も過ちを犯す】

 そして、現実に今判明したのは、警察の現場においても、治療期間が2週間以内の事件は送検せず、内緒にしていた事実です。これが今ごろわかったことこそ問題でしょう。
 61年に湧き上がった全国の副検事の「警察もまたどうせ不起訴なら捜査しなくても良いということになる。」という懸念が実際起こっているのです。
 1968年(昭和43年)業務上過失致死傷罪は上限が3年の刑から5年に引き上げられました。この流れは、覚醒剤取締り法にも及び、5年以下の刑が10年に引き上げられたのです。1973年(昭和48年)です。
 国の方針は、悪質な車の運転や覚醒剤所持に対して、厳罰をもって取り締まることだったのです。
 ところが昭和61年の東京高検検事長、元事務次官上りの前田宏によって、交通事故で忙殺されていた多くの副検事の仕事を助けるために、この立法の趣旨は逆の緩刑化を行い、日本全国の交通の取り締まりを緩める事になったのです。前田宏氏はその後、検事総長になっています。

3 交通警察の「緩み」

 検察庁、警察の交通事故に割かれる時間や人員は膨大ですが、これを楽にするためのつけが警察の不祥事となってさらされているのです。
 61年の検察のした事は警察のたがを緩め、副検事の能力を奪い、日本の国民から規律と言うものを奪いとったのです。検察亡国であります。検察は素直に非を認め、現状を正し、悪しき交通事犯に厳罰をもってしないと、緩んだ現場の士気は取り戻せないことを肝に銘じるべきです。警察も検察のまねをして「緩み」が生じているのです。
 この問題は2週間とか3週間とかの問題でないはずです。その証拠にこの静岡県警は時間まで加害者の言うとおりにして実際の事故発生時刻を1時間後にしており、加害者の救護義務違反に目をつぶっているのです。現場ではまったくやる気のない雰囲気が象徴されている事件であります。警察は緩みの雰囲気でやっているのです。むしろ、医療への不当な介入すら行っているのです。

第3 交通事故の医療現場への警察の介入

1 次の文は平成5年7月発行の自動車保険ジャーナルに掲載された「交通事故診療をめぐる諸問題」です。

 交通事故の医療に関わる医師の会話です。交通事故の医療と警察との関係が示されているので、これを摘示すると次の通りです。

  1. 交通事故の診断書は警察の要請で、見込みとつけて早く書かねばならない。
  2. 実際の治療は「見込み」の期間通り かというと、そうではない。
     事故直後に初めて患者さんを見て、その時点で将来の治療時期を正確に予測して書けという のは無理。警察は医師の力を過大評価しているか、形式的に必要だというにすぎない。
  3. 刑事処分の判断資料として、 診断書による治療日数と加害者の過失度合いが、公判となるか、略式となるかが分かれ、加害者の過失の度合いが低くて も傷害が全治1ヶ月となっていると公判を開くことになっているようです。このため、医師の作成する診断書の日数は1ヶ 月以内で2週間とか、3週間にとめることが望ましく警察の提出用の診断書は暗黙の了解のように3週間以内がほとんどとされている。
     なお、例えば、患者さんが10日後に人身事故扱いにして欲しいと警察に言っても、警察の診断書で1週 間となっていると、人身事故扱いができないのだそうです。そのため、被害者が警察の診断書を書き直してほしいという機 会も多いのですが、被害者が警察に電話して説明しても駄目なので、診断書を追加訂正することがあります。非常に不自然ですね。警察は診断書を早く出させようとするのも原因です。
  4. 頚部挫傷の場合の診断書は1週間から3週間と決めて、1ヶ月と書くことはありません。
  5. 損保担当者の中には、警察用の診断書を根拠と(交渉用に)しているのではないかと思えることがあり、困ってしまいます。しかし、警察用の診断書は、その程度のものだという理解を徹底してほしい。

2 医療へ警察が介入することの問題点

 警察における2週間以内の不処罰としている内部規定と併せて医療現場への警察の介入から推測すると、警察は仕事を減らすためにとんでもないことをしている、と思うのは私だけでしょうか。
 警察が医療に介入することの問題点を指摘すると次の通りです。
(1) 【刑事処分】
 加害者の刑事処分の材料として、実際にかかった診療期間は考慮されていないということです。医師も判断できない事故についても、無理矢理に診療期間を「2〜3週間」として処理しているのです。
 しかもこれは2週間以内であれば警察限りで終わり、永久に加害者は刑事処分にされないのです。
 この処理に不服があって、被害者が警察に言っても、取り上げてくれないのです。被害者が医師を説得して、診断書を訂正してもらって、更にこれを警察に持参して初めて聞いてもらえるのです。ここまでしても、警察が必ず事件を再捜査する保証はありません。
(2) 【損保の取り扱い】(特に鞭打ちの扱い)
 以上の警察の医療への介入を損保会社は利用しているふしがあります。医師が2通の診断書を書くことはまずないでしょうから、損保側には強力な材料となります。8ヶ月も治療に要したといっても、損保側から被害者が無理矢理治療を延ばしていると言われ、悪いのは被害者のほうだとされることとなります。鞭打ちで困る被害者の多くはこのシステムの背景が根本にあるのです。
 さらに、損保側は鞭打ちの被害者に対しては「債務不存在確認訴訟」を提訴して、加害者側が被害者側を逆提訴するという悪しき現象までも生んでいるのです。
(3) 【民事裁判の影響】
 以上の事実は民事訴訟にも当然影響します。医療現場への警察の介入を知らず、教えられても理解できないと思える裁判官は「診断書」を治療期間の正しい証拠としてしまうでしょう。実際の治療に8ヶ月要しても、加害者に刑事処分がない場合にはますます確信を持って2週間以内の診断書を証拠として信用し、被害者の「治療に8ヶ月かかった」という言い分を嘘とするでしょう。形式的になっている今の交通民事裁判では当然でしょう。