示談交渉や和解をなぜしていけないか?
平成14年8月29日 弁護士 松 本 誠
(1)日本では、これは積み上げ方式が当然とされています。少しづつ積み上げる交渉方式です。交渉に限界が初めからあります。
(2)次に示談交渉も交渉ですから、自分が言えば、それに拘束されるという自分への面子もあり、相手もそれを前提にその間の金額となります。相手の面子も守らなくてはいけない交渉となります。交渉に入れば自分が拘束されるという交渉の罠が待ってます。言えば自分が拘束されていくという状況となります。
(3)特に示談交渉については、遺族へは事故情報は呈示されません。損保の調査資料のみです。警察や検察の捜査記録は日本では100%開示されておりません。損保側はそのための【損保リサーチ】等専門機関があります。ここには警察OB、検察OBが就職し、或いは顧問料を受け取って職員や弁護士が多数います。自己翌日に数字を転記した事故報告書や、検察情報が損保にあるのは、こういう仕組みがあるからです。
ところが、被害者側遺族には何にも知らされません。警察へ言っても、捜査の秘密となります。自分の身内には教えても、遺族は絶対に教えません。
すると遺族側には、事故情報は確実にないこととなります。損保の言う情報を信じるしかないのです。損保はここでも、過失割合は何対何、たとえば9対1とか平気でしてきます。刑事処理が終了していない時期でもです。すると被害者の過失割合が問題となる事案は、刑事処分を待ってから、動いた方がいいこととなります。交通事故では、民事と刑事はリンクしている点と、情報が開示されない点を把握すれば、示談をすべきでないとなります。
(4)将来裁判した時、裁判官は示談交渉したか、必ず聞いてきます。事前交渉したと聞くと、待ってましたとばかり和解案を勝手に作成します。話し合いがあったことを、和解のきっかけとするのです。
(5)和解とか示談という言葉は、死亡事故事案の解決の言葉として、遺族には到底馴染めない言葉です。
(6)和解の言葉の意味は加害者側と仲良くするということです。どうも腑に落ちない、という遺族の多くは、この心の問題に気付かない場合が多いのです。自分を責める原因となるのです。遺族にしたら、解決したと思わないままとなります。
(7)裁判官は示談や和解を好みます。なぜか。判決を書くのは骨の折れる仕事なのです。和解は事実上は10分で済みます。判決は難しいのは相当の時間が必要です。件数は抱える裁判官には、和解が一番いいのです。しかも、弁護士は、裁判官から和解勧告されれば、断ることはむつかしいのです。特にその裁判に和解をかつてしてもらっていればなおさらです。前に和解に協力したのに、と裁判官の面子を害します。多くの弁護士は好んで和解をするというわけでないのに、和解手続に入らざるを得ないというのは、裁判官のごり押しも結構あるのです。ですから、損保弁は和解をよくやってるので遺族には馴染まない方式となる場合が多いのです。地方ではどの弁護士も損保の仕事をしてますので、なおさらです。損保の仕事をしてなくとも和解の雰囲気は日常的です。和解方式は一番遺族が感情を害することです。
(8)和解手続に入ったら、もう後には引けません。裁判官の面子が出てきます。いったん手続きに入ると、裁判官はどうして断るのか?自分の設定した場を? と嫌な顔をする場合すらあります。遺族の和解途中の拒絶の意思表示の付けは、無言で意地悪をされることとなるのです。特に裁判官が和解案なるものでも作成したあげくに断ると、強烈に面子をつぶされたと思います。これが一番怖い!のです。判決で、理由もなく弁護士費用を削除された判例すらあります。ヒステリックに反応する例です。
(9)示談でも、和解でも遺族の方だけ悩みます。どうしてか?損保は自分としては精一杯です。本社の決裁が必要ですといいます。例外はありません。弁護士にすら、決断権限が与えられておりません。損保の弁護士はどうしようもないのです。困るのは遺族です。裁判官がどうしますか、と責めてきます。決断をしない遺族を。決断をしない遺族側弁護士を。弁護士は決断を求め、遺族側でひたすら悩むのが示談和解システムの弊害です。
(10)逆に判決を求める裁判ならば、徹底して、真実の追究はこだわりを持つ点を展開できます。たとえば、公判での嘘で心情を害された、公判時に約束したお参りに一回も着ていないことで心情を害された。事故後の対応では、痛く心情を害された。すべてがテーマとなりえます。土俵は遺族で設定できます。それをどう評価するか、裁判官の勝手ですが、裁判をきちんとできるし、発散の場となります。心情の閉塞もなくなる可能性があります。長期となっても、長期の分だけ利息が年率5%もつきます。0金利時代に望ましいというより、進んで長期の裁判をしたい、と思うほどです。4年やれば、2割の利息、8000万円が損害としたら、1600万円もおまけがつきます。
(11)和解等がなぜ、遺族にとって不利益か、なぜ100%不利益か。決定的なのは金額の差です。慰謝料、逸失利益は示談段階よりもアップしますが、裁判しても和解段階では、判決とは完全に違う項目があります。何が足りないか?というと 弁護士費用と事故日からの遅延損害金がありません。もしこれを載せてきても、裁判官の【通常はこれはないのですが】と恩着せがましい言葉があります。どの和解でもそうです。すると和解と判決ではどう違うかかというと、事故後4年経過して和解か裁判という場合、遅延利息で2割、弁護士費用は1割とされていますので、損害の3割が削られることとなります。ばかばかしいと遺族は思いますが、裁判官や弁護士の常識は違います。判決だったどうなるか、分かりませんよ、との脅しを掛けて、7掛けの損害で我慢せよということとなります。和解で終われば、遺族は自身の損害慰謝料と逸失利益の中から、弁護士費用をしはらわねばなりません。出血を伴ないます。判決ならば、裁判所が大部分を認定します。和解はなんてばかばかしい、となりますね。官僚裁判官の下では常識的なことが、遺族にとっては虐待に近い扱いなのです。
(12)具体的相談 【死亡事例】
20歳就労していた死亡被害者の例でいうと、損保呈示金額(相手一方的過失、轢き逃げ数年の実刑)
葬儀費 100万円 慰謝料 1800万円
逸失利益 2940万円 計 4840万円
(ライプニッツ方式 17.891 中間利息 5%3,274,200円H12年度賃金センサス高卒20才)の呈示はいかがでしょうか、と相談ありました。
(回答)
慰謝料は悪質極まりない事故ですから、上限3000万円でもいい事案。逸失利益は損保の常套手段の言い方です。20歳の実際年収あるいは賃金センサスで計算します。20才時の年収で生涯同じなんてありえません。裁判所の基準では、生涯の平均、つまり高卒平均の528万円となりますから、5%控除率で言っても、4723万円となります。以上で7723万円となります。
事故日よりの遅延損害金が年率5%で加算されます。元本に対してです。
裁判所基準で計算しても、8100万円以上となる。
交通死亡事故の相場には3段階(私は4段階と思うが)あると言われます。損保との交渉時、損保の弁護士が入る時、裁判時の3つです。どれを選ぶから自由ですが、交渉で気をつけるべきは、入った以上は面子もあるが、後に裁判しても話し合いをしたか、必ず聞いてくるということです。裁判しても示談の延長みたいなものです。2年前に終了した22歳男性事案は、こっちがつけた弁護士が5300万円の呈示をして、これ以上は無理と言われ、遺族弁護士解任後私が判決までいったのですが、結果的には依頼弁護士呈示の2倍となりました。総支払い金額は1億円を超えました。裁判にも、和解レールと判決レールに分岐され、判決が一番高くなるということは、理解されにくいでしょう。示談では6千万円前後が限界。それ以上を希望すれば、判決まで行く弁護士を頼め、となります。8500万円から9000万円(弁護士費用加算認定もあり)となる事例で、損保の呈示は馬鹿にしていると思われませんか?あるいは、損保呈示は自賠責を含んでの呈示ですから、これを含む場合は切り離して、さっさと自賠責請求をしてから、後日ゆっくり残金請求としたら、交渉しないほうがいいと悟ったほうがいいでしょう。示談などせずに、自賠責請求をしなさい。残金は時効時点の3年直前に考えればいいのです。これを勧めます。示談交渉なんて、損保の利益のための方策です。
(13)【重度後遺症事例】症状固定までの休業補償、医療費の損保への支払い交渉
多くの重度後遺症被害者で悩まれる事例があります。
「損保が休業補償を支払ってくれていたのに、支払わなくなった、医療費を支払わないと言ってきた、どうしようか、弁護士に頼んでけど、一応の支払いはその後あったが、それからまた停止してきた、夫が意識障害となって子供がまだ大学生なので生活も困ってます」と。
この事例で悩まれる重度後遺症は本当に多いです。どういえば言いか困る程です。まず、重度後遺症事例だけでなく、損保が事故後の処理を当然してくれるものと誤解されています。損保は利益会社でして、利害は対立しております。少しの支払いもしたくないのが本音です。ですから当初医療費や休業補償をしてくれていても永久に続くわけがないのです。打ち切り時期は早く来ます。当然にしてくれるものと期待していた家族は、裏切りと感じたり、いじめていると感じるのは仕方ないでしょう。しかし、弁護士もシステムの理解をしていないために、当座の支払いを求める交渉に入る場合が多いのです。もっとも交通事故専門とする損保弁護士は限界を承知の上で交渉に入り、交渉が成功したとしてくる場合もあります。あくまで限度があるということです。かかる弁護士を馬鹿とか詐欺的交渉とは言わないが、一定期間の支払い決定をもらっても、それ以上続きません。交渉に初めから限度があります。
ではどうするか? もともと損保は敵であり、利害対立し、人間性がないことをするのが当たり前と思う立場からは、次のことを勧めます。
1 まず身体傷害手帳の交付を受けること、これにより福祉手当てが出ます。
2 重度後遺症の場合、自動車事故対策センターよりの給付もあります。これらの給付をもらいながら、症状固定日決定をいつにするか、考えましょう。そして、自宅介護の準備を考慮して決定し、決定をしたら、すぐ訴訟提起となります。ある意味で打ち切られた分の支払いもその中でする戦いとなります。これが重度後遺症の家族特有の示談問題です。仮払いを求めたり、裁判所を通じてまで、症状固定までに費用の支払いをする弁護士の話をされる家族の話は勇敢な弁護士と映っていますので、余計なことを言いませんが、実はそういうシステムの理解をせず、或いは知っていて、交渉となるのだと認識すれば、家族の心の葛藤はなくなるかもしれません。常識論とは違うかもしれませんが、これが被害者側家族の妥当な選択方法です。