交通重度後遺症被害者に対する解決システムの問題
平成12年8月23日 弁護士 松 本 誠
交通死被害者遺族の権利等については機会あるごとに事故解決のシステムの問題点に触れてきましたが、重度後遺症被害者の問題点も深刻です。
1.警察の問題
交通事故が発生して被害者がいても加害者の取り調べの手続きは敏速に慎重にやるが、被害者の側への配慮はほとんどなされていない.のが実情です。事故がどうして発生したのか、あまり教えてくれないこともあり、警察が被害者の家族との接触を避けるような雰囲気があります。
どうしたらいいのか、被害者の家族が困っていても、自分達の仕事は事故の処理のみという雰囲気がみうけられます。本当は不慮の事故に遭い、右往左往している家族に、丁寧にこれからの医療や捜査や福祉等の手続き等について、最初に接触する役所が警察なのですから、それなりの対処の仕方があってもしかるべき筈ですが、ほとんど被害者家族は途方にくれるままであり、警察にすがって相談に行っても積極的対応はしてくれません。
2.次に病院の問題があります。
被害者は突然の事故に遭って、やむなく病院に入院するのですが、病院側はほとんど例外なく、3ヶ月経ったら退院して下さいとの要請を家族にしてきます。これは病院の保険収入の損益分岐点が新規の場合、3ヶ月となっていることもあり、どこの病院も扱いは同じです。
TAVの会員から相談を受けた例でも退院入院を繰り返される例もあります。
それどころか、3ヶ月の退院要請があって家族がほかに受け入れる病院を探してみても入院している病院も転院先の病院を紹介してくれるわけでもありませんし、自分で探してもほとんどの病院が受け入れを拒否します。
特に植物状態に近い被害者の場合はなおさらです。
苦しむのは被害者と家族だけであり、病院は悩むことはあまりないようです。病院に仕方なく居つづけるのも肩身を狭くして遠慮しながらです。
どこか基本的に病院の仕組みがおかしいのではないでしょうか?
3.病院の問題はもっとあります。
ヘルパーの問題です。
平成7年頃から病院では私的に頼むヘルパー制度を廃止されました。完全介護体制という名目上の制度が出来たからです。
ところが一流の病院ならいいのですが 重度障害者を受け入れてくれる病院はこういう完全介護体制を充実させているところは少ないのです。そのため、重度傷害を受け入れる病院には、介護体制が充分でないところも多く、家族がやむなく介護をせざるを得ないのです。このため、腰を悪くしたりする家族もあり、ヘルパーを頼もうと思っても、病院側で断わられるのです。事故も入院も望んだものでもないのに、理不尽な扱いが続くのです。
交通事故の場合だけは例外とする扱いをしてくれたら違うのですが。
4.加害者の刑の問題−不当に低い刑が多い−
重度傷害の場合には家族が仕事を辞めざるを得ず、被害者の介護を一生しなければならない場合が多いのが実情です。そういう意味では介護をする家族の人生すら奪われるのですが、刑を科す側である検察庁や裁判所はこういう被害の実態に目をつぶり、1枚の診断書のみで事件を処理しています。
死亡でないから罰金でという感覚で処理しているのです。
介護の実態をみれば、死亡に匹敵する刑を科してもいいはずですが、介護の現場を検事が見ると言うこともなければ、裁判官が見ると言うことも行なわれておりません。
5.保険制度の問題
重度障害者の場合、医療費は治癒途中であれば保険から医療費が支払われますが、「もうそろそろ」という症状固定してこれ以上改善の見込みがないとされれば、医療費の支払いは保険から出ず、患者負担となります。医療費の保険金の支払いがストップされるのです。
これ以降は軽度の障害の場合と同じく後遺症だけの問題として、後遺症として逸失利益、慰謝料の問題として処理されるとされています。ところが、医療費をストップされると家族も困るし、病院でも対応に困るのです。
こういう段階で相談を受けたら、ここからはある意味で生活を賭けた戦いという段階となります。というのはとりあえず、自賠責金でとりあえずの数年分の生活費を確保して問題となる慰謝料や逸失利益を裁判等で確定しなければなりません。家族が仕事を辞めている場合が多く、死活問題となるからです。先ほど問題となった重度傷害者への自賠責金員の支払いの拡大という問題はこういう背景があるのです。
6.法律上の問題 ―家族の介護料―
裁判で、家族の介護費は損害として当然請求出きるわけですが、家族は思っても見ない事故の介護をせざるを得ないわけですが、この介護の評価については裁判所が認定するのは不当と言える程低い額です。
職業的介護者の場合と比べて、約6割程度であります。家族がいわば4割分の労働を家族だからという理由のみで無償でさせられているわけでして、裁判所の冷たい扱いにしか映りません。およそ近代国家とは思えない処理のしかたです。
職業的介護者の介護費も介護保険制度での単価とはおよそかけ離れた金額です。ヘルパーを雇うにしても1日わずか一万円くらいと認定してます。
―5%中間利息控除―
逸失利益や将来の介護費の損害の計算については交通死亡事故と同じく、5%複利での中間利息控除という問題があります。死亡事故と違うのは重度傷害の場合には被害者本人が年間5%での複利運用が出来るものとして計算される点が違います。つまり、重度傷害を抱える本人が今、およそ考えられないような高利の賠償金の運用が出来るものとして処理されているわけです。ある意味で弱者の切り捨てともいうべき現象がそこにあるのです。
―後遺症の厳しい認定―
重度傷害の場合、脳の高次脳機能障害を伴う事が多いのですが、後遺症基準自体が硬直なためもあって、後遺症認定されないケースも多いのです。
家族だけが悩んでいるのです。
7.生活上の問題 ―生活や人間関係からの孤立―
重度後遺症の被害者家族は介護状態に常にあるためにこれまでの人間関係や生活関係の環境とまったく違う環境に置かれます。ある意味で精神的にも極めて問題のある環境となります。このため介護をする家族には往々にして、特有の精神的症状もみうけられるケースもあるといわれています。
支援するボランティア等が必要なのはこういう状況もあるためです。