2回も実施される加害者の実況見分
平成16年1月23日 弁護士 松 本 誠
その1 被害者直進バイク
14年8月の尼崎市内交差点の事故。列車の高架下をくぐり、下り坂を過ぎ、上り坂を走行してきたバイクがすぐの交差点で、反対車線から右折していたワゴン車と衝突、バイク運転者死亡事故。いわゆる右直四輪車と直進バイクの事故です。
右直ワゴン運転手は45分後の検知で0.45mg/lの飲酒運転。相談は公判最終段階。
遺族は私に『捜査がおかしい』と。飲酒運転で悪質なのに、捜査がおかしいと?
遺族曰く『警察は科学捜査研究所の鑑定の50キロが、どうしてその後時速80以上とされたのか、おかしいと。公判第1回目に副検事が起訴状朗読で、(被害バイクの速度時速80キロ以上)と亡くなった息子に過失あるように言い、驚きました』と。
【遺族の疑問】
飲酒事故判決は、被害バイクの速度が考慮され、相当の飲酒なのに加害者は執行猶予判決。相談を受け記録を見ると、科学捜査研究所の鑑定結果は時速50キロですが、警察は、別途、バイク時速80キロ以上とする捜査復命書を作成し、そのうえ『バイク時速80キロ以上』との目撃供述も作成していました。執行猶予判決の原因は、被害者が速度オーバーとされているのです。遺族は納得できないと検事に言い、検察へ控訴をするよう上申書を出しましたが、検事は『民事でしてくれ』と責任逃れ。
【独自の調査】
こうなったら独自の調査。深夜、目撃者から見て、正面から来るバイク速度が判明するかどうか、現場に行くと速度が判るわけがありません。目撃者の位置は、バイクが高架下を潜り、登り坂をいきなり出てくる正面なので、向かって来る光のバイクの速度がわかるはずが100%ないことを現場で確認しまして、すぐに目撃者に会いました。目撃者は『衝突瞬間しか見ていない』と。ではどうして警察の調書となったか、質問すると『警察が勝手に言い、勝手に書いた速度』と。警察は飲酒運転者をかばい、調書をねつ造していたのです。目撃者はこれで潰せる手筈をしました。
次に、被害バイクの速度を時速80キロとする捜査復命書です。めちゃくちゃです。科学捜査研究所の鑑定書では『被害バイクの速度は時速50キロ以上で上限推定困難』とお墨付きの断定までしているのに、わざわざバイクの推定速度を捜査せよ、との捜査復命(指示すること)自体がうさんくさいのですが、これに答えた警察官の復命の捜査報告書がでたらめで滅茶苦茶です。
(1) 飲酒加害者の指示する数字を根拠に、発見地点から衝突地点までの距離をもとに、『四輪被疑者のバイク確認した地点と衝突までの地点までの四輪と、バイクとの対比距離は4倍で、4輪速度は時速20キロだから、バイク速度は80キロ』と。
(2) ところが、飲酒ドライバーの供述は2回やり直しの実況見分調書です。最初の数字は事故当日直後の実況見分。2日後に実況見分やり直し。飲酒加害者は酔いから冷めると、事の重大性に気付き、あの時の実況見分は違うというのが本音です。警察は加害者の実況見分のやり直しの要請に答えたのです。まるで加害者の弁護人です。
(3) 被疑者の実況見分調書に対向バイクの他の対向4輪車も記載されています。ところが、他の3人の目撃者は、バイク以外の対向車を否定しています。つまり他の3人が見ていない対向四輪が被疑者調書にある。飲酒ドライバーの言い分は信用できない歴然とした証拠です。
(4) 車の速度を見ると、当初の被疑者の言い分は、『時速30キロ』とされてましたが、最後に供述変更し『時速20キロ』となってます。
警察は加害者の言うとおり、実況見分をやり直し加害者寄りの捜査をし、四輪の速度も低めに変更、発見地点まで変更させています。他の複数目撃者が『被害バイク以外の対向車はいなかった』と述べるのに、対向4輪車がいたとの加害者の供述を信じる警察の姿勢は異常です。もし加害者の言う対向4輪車がいたら、事故の衝突直後被害者2名は轢かれ、加害車両と衝突しているはずです。対向車が事故後、存在がないのがおかしい。捜査復命書は信憑性のないの言い分や、変遷する言い分をもとにしています。
飲酒運転加害者にあまりにも過保護過ぎ、頼まれた捜査としか思えません。刑罰責任を回避させるために、死んだ被害者に責任を押付ける捜査です。
科学捜査研究所の鑑定50キロ以上、上限推定困難と断定しているのに、鑑定書を無視し、捜査復命書をねつ造し、被害バイクの速度を時速80キロとの目撃供述もでっち上げた明らかなねつ造です。昨年もねつ造事件を起こしている警察です。あまりに飲酒加害者を大事にした常識を外れる捜査です。捜査情報が被害者にわからない事を利用し、言い分の変遷を許し、挙句に目撃者の供述をでっち上げ、加害者を助けようとの捜査です。捜査情報が開示されない事を利用した犯罪的捜査です。
その2 信号のない交差点を『ふらふらと出てきた』歩行者 事件
2回の実況見分は犯罪者として加害者を追及する場合には通常ありえません。2回の実況見分は被害者には不当捜査の象徴です。2回の実況見分の例は他にもあります。
2年前、罰金で終了した事件ですが、被疑者の実況見分を2回していました。何でそんなことをするのか? と単純な疑問を生じました。2回実況見分で、加害者の言い分どおり加害者有利に記載。信号のない交差点を渡ろうとした20歳代の男性を車が死亡させ、被害者が悪いようにさせたものです。2回の実況見分をした被疑者の言い分は【被害者が道路にふらふらと出てきた】。昼間の事故でです。処分は罰金で終了。民事は『ふらふらと出てきた』が争点。遺族は事件後調査し、判明したのは2回の実況見分と、警察犬の訓練を10年以上していた加害者の身分でした。警察は加害者を守る捜査を平気でするという思いが残った事件です。
その3 不起訴2度決定の交通事故が公判起訴され有罪事件
中日新聞によると名古屋地検が検察審査会の議決を受け、二度の不起訴を覆して業務上過失傷害の罪で起訴した会社員が公判で有罪とされる事件が先日ありました。私が担当した事件ではありませんが、象徴的な事件ですので紹介します。
【会社員は1997年12月、名古屋市名東区で乗用車を運転して対向車線にはみ出し、ミニバイクをはね脳挫傷の重傷を負わせた事件。名東署が当初「乗用車がセンターラインを越えた」との実況見分調書を作成したが、会社員の反論を受け、逆の内容の実況見分調書を作成。地検は「どちらに過失があったか認定できない」と不起訴処分にした後、古村さんの両親が目撃者を捜し出し地検に上申書を提出したが、再び不起訴に。申し立てを受けた検察審査会が2001年1月に「不起訴処分は不当」と議決した。地検は別の目撃者を新たに捜し出し、衝突時の位置関係などを再鑑定したうえで二度の判断を覆し起訴した。】
わかりやすく説明すると検察1回目の処分は不起訴決定、遺族が再捜査の上申書、検察が2回目不起訴決定、検察審査会が不起訴不当決定、検察が3回目公判起訴決定、今回の判決、の手続きだったようです。原因は加害者の2回の実況見分にあります。
2回の実況見分をするのは常識ではありえません。被疑者が警察関係か特別な政治的働きでもない限り一度やった実況見分をやり直すのはありえません。警察の無謬主義という文化のためです。どうして実況見分をやり直すのか。被疑者を助ける為に2度の実況見分をしています。最初の実況見分をそのまま記載しているから揉み消しではないのですが、証拠=当初供述が決定的に信用無くなるという意味で、2回の実況見分をしたら加害者を救済します。刑が軽くなるのは間違いない。警察に落度はなく、合法的揉み消しとして2回の実況見分をするのです。被害者の監視もないから、加害者のみ参加できるステージで何が行なわれているかといえば、極めてダーティな捜査官と加害者との茶番劇です。加害者は刑の減刑のため全力を尽くします。警察へのアクセスが加害者だけに可能です。
なぜ多発するか。検察が不起訴徹底した挙句に、人身被害者数は60万人に激減した時点から120万に迫る勢いです。交通捜査は、かつて昔々は初犯から実刑を、でしたが、今や事故捜査という形式的なもので、一生懸命な捜査も誰もほめてもくれないし、捜査の処理能力の限界をはるかに超えてます。だから加害者の供述に頼る捜査をするしかないのが今の交通捜査です。加害者を大事にする姿勢の根源がここにあります。科学的捜査でなく、岡っ引的捜査に頼る警察の姿の象徴が2回の実況見分です。