―監察申立―  死人にくちなし捜査の告発

6月22日産経新聞朝刊記事

平成16年6月30日
弁護士 松本  誠

TAVの事例では、死亡事故で死人にくちなし処理されるケースが多く本件もその一つ。
飲酒死亡事故なのに『死人にくちなし』として被害者に責任転嫁され、処理をされたケースです。死亡事故の捜査は捜査側と加害者と被害者の3者の利害が対立しますが、日本は捜査情報開示しないため、実況見分をやり直したり、或は捜査ででっち上げるケースが目立ちます。つまり、被害者の利害は完全に無視されて、捜査や加害者の利害で捜査が進展するのです。産経新聞が取り上げた尼崎北署事件は典型事件です。

捜査がおかしいと遺族が言っても、遺族にどういうクレームの仕方があるのか、具体的制度はありません。
@国家賠償の方法
例えば公務員の不法行為として国家賠償を訴える方法もありますが、最高裁の判例で捜査は被害者のためにあるのではないとされ、すべて請求却下か、請求棄却とされていますので、裁判所が捜査ミスを取り上げることに期待はできません。
A交通民事訴訟内で争そう方法
すると、交通民事訴訟で捜査の不当性を訴えることとなりますが、交通民事訴訟は金銭解決の場とされてますから本気で、警察官の捜査を疑うような審理の裁判はしません。警察官を呼んで尋問をして、裁判官の心証として疑わしいが、とされるだけであり、捜査記録として存在する以上は捜査が正しいとされる場合が多いのです。
B告訴の方法
それでは警察官を告訴したらどうか? 告訴は犯罪として扱って欲しいということですから、そもそも交通捜査は、チームで行ないますから、それが集団的な犯罪とされる可能性は100%ありません。
結局、遺族としたら、どうしたらよいのか悩みは壁となります。 
C監察申立の方法
今回は警察本部と警察庁長官に対して監察申立をしたのです。警察の無謬主義の組織文化があるので、楽観するような不服申立ではありませんが、少なくとも捜査が適切 だったかどうか、の調査と報告はしてくれるでしょう。それをきっかけにこちらも第2の手段を講じることが出来ます。
捜査の経過
14年8月25日22時58分の深夜の死亡事故。バイクが尼崎市道路を北に直進中、鉄橋をくぐり、坂を登った交差点で南からの右折途中の飲酒運転車に衝突され死亡。
警部補は『飲酒はたいしたことはない。バイク速度は科捜研へ依頼した。スリップ痕から二輪速度は50〜55キロ以上と科捜研の報告』と言われていました。ところが、遺族が裁判傍聴したら、検事は冒頭で『バイクは80キロメートルで走行』と言ったので驚愕。警察から時速50〜55キロメートルと聞いていたからです。結局、判決はバイク速度を80キロとされたことが影響し、執行猶予となりました。

平成14年8月25日 被疑者   実況見分@   目撃者聴き取り『目にいた』。
8月27日 被疑者再度の実況見分A 
8月29日 鑑定嘱託(実況見分@のみ提供)
10月2日 バイクの正面の位置の目撃者供述『バイク80〜90キロの速度』
10月21日 鑑定書作成(科捜研)『バイクは50〜55km以上で上限推定困難』
10月29日 捜査復命書
下命事項 バイク速度の推測せよ
復命事項 バイク速度は時速80〜90 km
@ 飲酒運転者の実況見分  被害者発見地点から衝突地点まで3.4m走行。被害者は13.8m走行13.8÷3.4=4.05倍、被疑者速度が20kmだから被害者の速度は81km。
A 目撃者の供述『バイクの速度は時速80〜90km』
10月30日 捜査報告  速度上限推定困難の記載なし。

監察理由とした『不当な捜査』とは一体何か?
@ 署長の捜査復命下命がおかしい。
10月21日に鑑定『バイク50〜55以上で上限推測困難』と。ところが署長名で、『バイク速度の推測せよ』と捜査の指示。 署長命令は鑑定結論と矛盾する。

A 捜査復命はバイク速度を80`の計算と目撃者供述の2つの理由。しかしながら、
警部補の計算はおかしい。実況見分Aで加害者がバイク発見した地点を13.8m。車は3.4m動く。加害車速度20`ゆえバイクは81`と。最初の実況見分@であれば41.8mと5.5mで、これで計算すると152`となる。
飲酒運転者の供述が変遷しているのにその一つを取り上げ、加害者の供述通りとする。被疑者は『バイク横に対向車あった』というが3人の目撃者は対向車をいずれも否定。すると酔払い運転者の供述に沿う計算はありえない。鑑定がありながら滅茶苦茶です。

B 目撃者の供述調書『バイク速度を時速80`〜90`』はねつ造。
現場に行けばわかるが、目撃者位置から速度認識は絶対不可能。坂をバイクが登った地点での正面からの位置に目撃者はいたわけで、虚偽供述。現実に目撃者に会うと、『バイク速度を警察官に言ってない、警察官が書いた』と。