証拠カイジって何?

平成16年10月30日
弁護士 松本  誠

遺族M 『刑事裁判で検察が提出しない調書を被告弁護人が提出してきました。何か変じゃないですか、おかしいですよ!』
松弁 『検察が提出していない供述調書が弁護人から提出されたのですか?』
遺族M 『弁護人提出の書証は謄写した検察提出証拠の中にありませんでした。検察が裁判に提出しない調書をどうして弁護人が出せるのですか??前の交代させられた検事がこっそりと弁護人に渡したりしていませんか?』
松弁 『そんなことはないでしょう。それにしてもなんで弁護人が裁判に出ていない証拠を持っているんでしょう。被害者は公判開始後、裁判長の許可を得た後に閲覧できるのに対して、加害者側は公判開始2週間以上前に検察提出予定証拠を見ることはできます』
遺族M 『不公平ですね』
松弁 『しかし、検察が提出もしていない証拠は入手できないはずなんですがね』

―数日後―

遺族M 『検事が「加害者の弁護人から証拠開示請求されたので被告人側に渡した」と言いました』
松弁 『なるほど。証拠開示請求を加害者がして、これに検察が応じたのですね』
遺族M 『先生、証拠開示請求って何ですか?』
松弁 『検察が裁判に提出をしない証拠があります。被告人にとって有利な証拠はできるだけ出したくないのが検察の本音です。それを見せてくれ、謄写させろというのが加害者側の証拠開示請求です』
遺族M 『えーっ、そんなのを入手されたら、被害者には不利じゃないですか』
松弁 『そういうことになります』
遺族M 『それって変じゃないですか。遺族が絶対に知りえない捜査情報を加害者だけがどうして知ることができるのですか』
松弁 『刑事訴訟法は、被疑者や被告人を保護するための法律ですが、最近はより加害者を保護しようということになってきているのです』
遺族M 『それじゃ、ますます遺族は蚊帳の外ですね』
松弁 『そうです。遺族は刑事裁判の当事者と扱われない上、証拠で提出されない未提出記録に接することはできませんから、非常に不公平です』
遺族M 『他にも不公平な点がありますか』
松弁 『刑事裁判で被告人弁護人が不同意とした調書は、被告人は謄写し知ってますが、被害者に謄写を認めていません。調書中の不同意部分もです』
遺族M 『その他には?』
松弁 『遺族に謄写を認めないのは他にもあり、前科や目撃者の住所もです』
遺族M 『前科などを見せないというのはわかる気もしますが、目撃者の住所はこまりますね。私たちが確認したくてもできませんから』
松弁 『どうして目撃者の住所を教えないのか、捜査に支障があるとしています』
遺族M 『捜査が終わっていれば開示するのですか』
松弁 『いえ、捜査が終了しても、処分が終わっても、開示されません』
遺族M 『それじゃ、警察がねつ造しているかもしれないのに、変じゃないですか。確認できないようにしているのですか』
松弁 『結局、そういうことになります。警察の捜査は絶対だとしているのです』
遺族M 『すると、被害者は蚊帳の外というより??何なんですか。ほんまに』
松弁 『被害者は法律上は“証拠物”だとされています』
遺族M 『なんちゅう法律や。被害者を人間扱いしてないのですか』
松弁 『実務は、捜査情報は加害者が優先取得し、被害者はますます入手出来ません。そのうえ、検察が裁判に提出しない証拠まで見れますから、ますます不公平となっているのが実情です』
遺族M 『人間扱いされず、ますます不公平になっているのですか。情報開示だけでなく、ただでさえ被害者は法律上不利なんでしょう』
松弁 『そうです。たとえば、提出された調書を加害者弁護人が不同意とすると、検察はこれを撤回します。その部分が公判記録にないことになりますから、遺族はこれを永久に入手できません』
遺族M 『すると、ますます被害者は不利だとなるのですか』
松弁 『そうなります。捜査情報開示の必要は、捜査段階から裁判段階のどのレベルでも必要なのですが、実務は加害者の人権保護の方ばかりです。被害者にとって法治国家じゃなく放置国家ですね。国連からも、被害者の権利を確保するよう勧告をうけたり、司法に携わる人間は被害者保護を周知するよう勧告もあるようですが、意見陳述すら教えていないのが日本の司法の実情です。被害者は司法の構造では邪魔なのです』
遺族M 『どうして、被害者だけがつけを押付けられるのですか』
松弁 『日本の法治主義は、被害者を含む法治主義ではありませんで、被害者は法治主義の枠外にあります』
遺族M 『先生、それって変じゃないですか?』
松弁 『そうです。ドイツ、フランスなど欧米では、被害者には刑事訴訟法上の当事者として参加できる権利があり、検事席の横に被害者の席があり、刑事訴訟法上の権利が保障されています。日本では被害者の権利はありません。だからますます不公平となるのです』
遺族M 『先生、ドイツなどでは、被害者と加害者は情報開示の面ではどうですか』
松弁 『ドイツでは、警察から送検されると、加害者と被害者に捜査情報が開示され、平等です』
遺族M 『平等なのですか』
松弁 『平等です。どうして、被害者の権利が強いかと言うと、1985年の国連の被害者保護の勧告や決議を受けたり、影響を受け、被害者支援団体やマスコミが動き、被害者の地位と権利が確立され、被害者を含む法治主義が確立したのです』
遺族M 『ドイツの人が日本の実情を見ると、どうなんですかね』
松弁 『ドイツに視察に行かれたTAVのメンバーのノイエンドルフさんの話を聞いて以上のことを私は理解したのですが、ドイツ人の弁護士の話では、日本は後進国だと驚いていた、ということです』
遺族M 『司法改革と言われてますが、どうなるのですか』
松弁 『日本での司法改革は、被害者抜きでの司法改革です。期待できません』
遺族M 『先生、私たちは法の保護を受けられないのですか』
松弁 『遺族が立ち上がり、不条理な現行法を変え、立法をしないと無理です。国や司法に任せたら加害者の人権だけが優先されやすい、そういうシステムなのです』