警察の書類偽造の慣例? 捜査書類は?

平成17年2月5日
弁護士 松本  誠

 警察による不正経理問題が全国的にかつ組織的に長年なされているとの報道がありました。愛媛県の現職警官が30年前から、上司から偽領収書の作成を指示され、これを拒否していたら昇進試験の際に署長から『組織の敵』とののしられた(平成17年1月21日記事)といいます。警察の不正経理問題は、北海道警や奈良県警が当初でしたが、最近では全国的告発です。領収書の偽造は私文書偽造ですから、愛媛県警は組織的犯罪を長年行なっていることになります。
  他方平成16年12月2日『兵庫県警警ら隊163人書類偽造で処分』と新聞報道されました。摘発事件を多数作るために事件のでっちあげを組織的にしていたのです。公文書の組織的な偽造ですが、県警は虚偽公文書作成行使罪の容疑で書類送検はわずか13人、他の警察官は懲戒訓戒で、実質無罪でした。
  この二つの事件が何を意味しているかというと、領収書や事件書類を偽造したのが、1警官でなく、皆でしている、上司も積極的に推奨している、と書類偽造の組織ぐるみ犯行と慣行です。
  かかる警察が交通死亡事故の捜査をするのですから、調書のねつ造がされているのではないか、と遺族が疑問を持つのは当然のことです。
  死亡事故捜査では供述者の記憶どおりの調書が作られているのか、というとそうじゃありません。交通死亡事故の捜査記録を検討すると、いわゆる『死人にくちなし』捜査が見受けられます。
  たとえば、被疑者の調書ですら、警察官が供述の偽造をしている事件は多くあります。でもこれが表面に出ることはありません。そして検察、裁判所の司法の役所は、警察の調書が適切に作成されていると信じ疑いません。書面審理だからです。警察官を呼んで直接審理すると、司法の負担が増えるからこれを回避するため書面審理となるわけです。書面があればそれでいいとします。真実追求は後回し。というより書面主義、形式主義で通用しているのが今の司法です。
  姫路の交差点でのH12年5月30日発生の交差車輌同士の追突死亡事故で、赤信号無視ひき逃げの被告人は執行猶予でした。実刑でなかったのは『被害者の対面信号が黄色』と被疑者調書にあったからです。しかし正直な加害者は15年5月の民事裁判で『被害者の対面信号は見ていない。警察官の言うままに被疑者対面信号は黄色とされた』と証言。これにより被害者の対面信号は民事判決で青か変わり目とされました。ここに至るまで遺族は書面を疑い、現場に何度も通いました。その結果、損保が言う被害者2割の過失は、民事判決でゼロとなりました。しかし済んだ刑事裁判はやり直せません。嘘のようなほんとの話が交通死亡事故の捜査でよくあります。
  それどころか、検事さえも偽造をします。被疑者の調書は厳しく責めるわけでないので、検察段階でも被疑者の変遷する供述に沿い、過失を軽くするのです。平成14年3月18日発生の、奈良のT字路交差点でのバイク直進、四輪右折死亡事故では、警察調書での被疑者供述『一時停止せず、左右確認もしてない』 が、検事調書で『一時停止して左右も確認した運転』とされました。遺族は怒って検事交代申立てし、検事交代は認められました。が、検事調書の撤回とやり直しはしないまま、一旦提出の検事ねつ造調書は真実扱いされました。偽造書類でも一旦出来上がれば、そのまま通用するという司法による構造的ねつ造の世界が、あります。真実より書面を信じるという司法の手抜きです。
  これらは被疑者調書の偽造ですが、目撃者調書はもっとひどいねつ造の世界です。捜査提要で事件当事者の実況見分立会いは必要とされますが、目撃者は必要とされない事が原因です。警察は加害者の言い分を先に聞き、それに沿うように事件を片付ける、つまり目撃者調書ねつ造して捜査は完了です。遺族が考える目撃者から先に話しを聞いてする厳密な捜査は現実にはありえません。『被疑者の供述先にあり』が交通死亡事故捜査の仕組みです。邪魔な目撃者は調書さえ作らない事件も体験しました。目撃者は被疑者の供述に沿う要点を述べる供述調書となります。しかも目撃者調書は事故日から相当時間が経って出来る場合が多いのです。目撃者も記憶が薄れ、警察がねつ造しやすいのでしょう。
  例えば、H14年8月25日の尼崎の死亡事故はバイク直進と右折四輪車との衝突事故でした。バイク速度は鑑定書で時速50キロ超える程度でした。2ヵ月後に出来た目撃者調書は時速80〜90キロで、これに沿う捜査復命書を警察官が作成。鑑定書があるため、2本立ての偽造書類を作ったのです。これを根拠に警察も検察も、刑事裁判で被害者バイクは時速80〜90キロと断定し、加害者は執行猶予となりました。
  ところが事故から数年経ち、目撃者は民事法廷で『バイク速度はわからない。警察官が言った数字が私の言ったことにされ調書に記載された』と正直な証言。
  警察のねつ造調書を目撃者が言うことは、度胸がないと言えませんし、時間が経てば迷惑がる場合が多いことを考えれば、稀有な目撃者といえます。被疑者や目撃者が民事法廷に出頭する事自体難しく、証言しても自分の警察の調書が嘘と証言してくれるのは非常に珍しい。
  大阪南部の死亡事故では目撃者の偽造警察調書が事件処分で決定的とわかったのは事故から6年経ち、民事控訴審でようやく目撃者調書が開示され、その目撃者から真実を聞いたからでした。警察調書に本人が述べない供述が簡単に作られ、それで不起訴となっていたのです。これがわかっても民事一審は終了し、刑事は時効で、後のまつりです。目撃者2名が法廷に出て証言することの協力もありませんでした。迷惑がる目撃者は、被害者から見れば最後の切り札なのですが。
  これらの調書ねつ造は発覚しても犯罪とされることはありません。しかも警察や検察や裁判所の仕事で発覚することは絶対ありえません。ほとんどが遺族のこだわりと無限のエネルギーの調査活動により、民事裁判で判明するしか機会がないのです。しかも調書が偽造扱いされるのは、ごくわずかな例に過ぎません。同一事件で、偽造書類が複数となるとこれをひっくり返すのは、不可能に近いのです。
  民事に至るまでに『調書のねつ造』と遺族が訴えても、警察や司法は一切相手にしません。捜査が組織的になされるから調書は適切と推定されます。遺族の被害感情が強いとされ、『捜査は適切になされた』と警察トップは言うばかり。裁判所に訴えても『捜査は社会秩序のためにあるから、捜査の不適切を被害者に言う権利はない』と司法は警察を徹底擁護します。書面審理だけで裁判と思っている裁判官にすれば、遺族の言う実体審理は、邪魔で面倒くさいのでしょうね。
  しかし、冒頭に述べた『領収書の組織的偽造』、『警ら隊の集団偽造』を見れば、警察の調書は偽造の推定が働くのが正しい見かたじゃないでしょうか。『警察は書類を偽造している慣例がある、よって調書は偽造の疑いが強い。調書については警察官や目撃者を再度呼んで実質審理をする必要がある』というのは被害者遺族の立場でしか理解されないでしょうか。
  民事でも裁判官によって、当たり外れがあるのは困ったものです。遺族は、事故発生後に担当する警察官、副検事、弁護士、刑事裁判官の、各担当者が被害者の心情に理解を示す人にめぐり合わなければ、被害を受け続けていくのです。