急増するひき逃げ事件と、ひき逃げ厳罰化の遺族の心情

平成17年11月9日  弁護士 松 本   誠

■ひき逃げ事件の倍増と検挙率の低下
  ひき逃げ事件はH10年の9千件が、14年の1万8千に倍増です。ひき逃げ事件が5年間で倍増は社会現象として異常です。人身事故の被害者や人身件数が増加といってもこれほど激増でないからです(交通事犯数傾向)。
倍増の事実は何を意味しているのか?

■2001年に新設された危険運転致死傷罪と立法効果
  危険運転罪立法時、被害者数は昭和52年頃の60万人が118万人へ増大傾向で、特に最近の被害者激増は憂うべき事態でした。法律ができてから被害者数増加は頭打ちとなりました。人身事故は減少していませんが、交通犯罪の抑止力になったのです。しかし危険運転罪立法から4年経って出現した現象があります。危険運転をしたと思われるドライバーのひき逃げの増加です。

■飲酒運転でも逃げたら刑が軽くなり逃げ得?ひき逃げして刑罰が軽くなってしまうのはなぜか?
  もともと飲酒運転してひき逃げするドライバーはいましたが、危険運転致死傷罪成立後からは、極端に増えています。一晩経てばアルコールは影も形もなくなります。飲酒運転発覚を恐れ後で出頭する場合が多く、逃げ得が実情です。
飲酒運転や飲酒による危険運転致死傷罪がアルコールを要件(呼気1リットル中0.15mg以上)とするため、アルコール発覚をおそれ逃げる被疑者が激増しています。飲酒運転なら本来危険運転致死傷罪が、翌日出頭すれば危険運転致死罪の適用が免れる結果になるのです。

■『危険運転罪新設でひき逃げ事件が増えているのではないか』との意見
  もともと飲酒運転発覚をおそれ、ひき逃げ事件はありましたから、危険運転致死傷罪の立法が悪いのでなく、立法をまぬかれようとする悪質なドライバーが増えているのが悪いのです。危険運転致死傷罪で一定の犯罪抑止はあるので、法律は正当です。法律の抜け穴を利用するドライバーを罰する必要があります。

■『現行法のひき逃げの救護義務違反罪は刑が軽い』との遺族の厳罰署名運動
  ひき逃げの刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
被害者遺族の立場ではいわば家族が見殺しにされているわけで、『助かる命をも見殺しにする犯罪にもかかわらず、刑が軽い』と思うのも当然でしょう。そのため、ひき逃げの厳罰化立法の署名運動が起こるのです。危険運転の罪を免れ、逃げ得を許すなら、危険運転や飲酒厳罰化法はザル法です。現行の5年を上限とする救護義務違反をせめて7年の上限としてもいいでしょう。
しかし、この場合問題が多すぎます。
ひき逃げは業務上過失致死傷罪とほぼ同じですが、5年以下の懲役または罰金50万円以下と禁固刑がなく、業過致死傷罪より若干重いのが現行法です。厳罰化の必要性は、ひき逃げが故意犯で、差し迫る人の身体生命への危険を放置している場合違法性が大であることから刑を引き上げてもいいと思います。
問題は業務上過失致死傷罪より明らかに重くしてもいいのかという刑のバランスや道路交通法違反の刑罰と比べて衡平を欠くのでないかとの問題です。軽傷でもひき逃げの厳罰化の対象となるというのも変です。軽微な事故で逃げても厳罰となるのはそぐわないでしょう。法務省は腰をあげるには壁があります。

■相次ぐひき逃げ事件をどう防止すればいいのか、その対策。警察庁や検察庁に求められる対策とは何か
現状での対策
ひき逃げされると、検察が危険運転を立件することは非常に難しいといえます。実際は業務上過失致死罪とひき逃げで処罰されます。しかしひき逃げすれば得するのは、不公平なので対策を真剣に考える必要があります。
飲酒運転による事故とひき逃げは悪質です。事故を起こし捕まったらどうしようとドライバーは考えています。常習で故意犯です。その認識が捜査側にあるのか。飲酒運転者が逃げれば危険運転で処罰されないため、業務上過失致死とひき逃げで処罰されますが、現行で処罰はあまりに軽い。しかし考えるとひき逃げは事故発生を認識し逃げるから故意犯で、処罰もある程度重くした方がよいのです。

 1番の問題は警察の検挙率や、検察の処罰の運用面にあります。
ひき逃げ事件の警察の検挙率は昭和62年まで9割以上でしたが、1作年は26%まで著しく低下しています。検挙率の著しい低下があるから、警察の士気がないのではないか、という指摘がされます。
ひき逃げが厳しく処罰されてないとの不信感が遺族にあります。警察がひき逃げで捜査をしても、副検事がひき逃げで起訴をしないケースです。私の担当事件でも、警察が一生懸命ひき逃げで捜査をしても、ひき逃げ事件を不起訴としたケースで、検察審査会が不起訴不当と決議をしたのは2件あります。業過致死罪だけ起訴してひき逃げを起訴しないのです。ひき逃げに甘い検察の運用面に問題があります。検察は、法廷の求刑にしても、実際は業過致死罪とひき逃げがあれば、併合罪適用で7年半まで求刑できるのが、実際は2~3年です。運用面で厳しくできるのにこれをしない姿勢が問われます。実務で副検事が担当し、それが原因となっている場合が非常に多いのです。ひき逃げ問題は年末12月30日に日本テレビ系列で18時30分から特集報道されるそうです。