請願書 日本国法務大臣。全国会議員殿
平成12年9月25日 弁護士 松 本 誠
請願事項 刑法211条の業務上過失致死傷罪の法定刑を5年から10年にして下さい。
飲酒運転による交通死亡事故で交通死被害者遺族は現行の刑はあまりにも軽いと痛感しております。
12年6月に、東名高速において、常習の飲酒運転をしているドライバーが飲酒の上事故を起こし、幼い二人の女子を死亡させた痛ましい事故に対する被告人の刑を4年とする東京地裁の裁判が話題となりました。
12年7月にも神奈川県で、大学生2人を飲酒運転、ひき逃げ、スピード違反により死亡させた事故の刑事判決の刑が5年6月であった事も話題になりました。
東名高速の事故事件では、事故の重大さ、運転手の過失の大きさがあるという理由で、検察の求刑は5年で、一審の判決は4年でした。現行の処罰としては異例ともいえる刑の重さであるとのことでした。検察は世論もあり、4年は不服として、控訴しております。実刑での例で検察が控訴するのもまた、異例との事でした。神奈川の事件では世論の動きもあり、刑は5年6月と言う現行の運用上もっとも重いものでしたが、遺族は納得していないそうです。もっともでしょう。
自分の子を飲酒運転のドライバーに事故とはいえ殺された被害者遺族も多いと聞きます。
飲酒運転のドライバーはほとんどの場合、ひき逃げやスピード違反を必ずしているといっていいほど、無謀な運転をして事故を起こしております。
酒を飲んで運転するのですから、当然気が大きくなり、車が凶器になることを自覚しないまま、運転するわけでありますから、当然事故が起これば重大事故となるのです。
現行法のもとでは、飲酒運転で死亡事故を起こしても、上限は5年で、運用面では2年や3年に刑が決まるというのは、どう考えても納得がいくものではありません。
車は凶器でありながら、これを平気で飲酒をして運転をする風潮があり、万一重大事故が起こっても僅か数年で出所できるのですから、現行の交通事故の法定刑では飲酒運転をするドライバーの抑止力になる訳がありません。
わが国でも事故が多発して被害の死傷者数は、今年の交通安全白書ではついに100万人を突破して、約106万人と戦後最高となりました。
昭和40年台当初この被害者数は99万人を超えて、100万人近くになったこともありましたが、昭和43年に業務上過失致死傷罪の法定刑の上限を3年から5年に引き上げられたために、被害の死傷者数は大幅に減り、昭和52年にはその数は約60万人となり、ピークの45年の99万人から40万人も激減しました。
60万人と激減した52年から、約20年が経ちました.
その後は事故件数の増加ということに検察が対応できないため、事故を起こしても起訴をされないという起訴率低下主義、非犯罪化傾向を生むようになりました。かつて昭和60年頃までは業務上過失致死罪の起訴率は70%を越えていました。それが今では12%となってしまいました。わずか、10数年の間の出来事です。明らかに異常ともいえるほどです。多くの交通事故事犯は起訴すらされなくなってしまいました。9割が助かっているのですから。
このためドライバ‐のモラルは著しく低下しています。
もっとひどいのは捜査の士気低下です。例えば、交通警察の現場の士気は顕著に低くなり、例えば、ひき逃げの検挙率は、かつて昭和60年頃は90%を越えていましたが、最近では66%くらいとなっています.最近警察は交通致傷事件では捜査をやらず、捜査の中断をしてしまう傾向すら生んでいます。
交通検察のやる気のなさが警察にもおよんでいるのです。
交通検察のやる気のなさはもっと深刻です。例えば交通死亡事故の不起訴率は60年までは1.2%だったのが、平成4年には10%を越えておりまして、わずか9年間で交通死亡事故の不起訴率は10倍と拡大増加しているのです。やる気がまったくなくなったといっていいでしょう。
交通事故において、ドライバーのモラルだけでなく、警察のモラルは低下し検察もモラルは喪失状態となっているのです。
こういう状況ではドライバーの交通モラルの低下は著しく、昭和43年の業務上過失致死傷罪の厳罰化の効果はとっくに無くなり、悪質なドライバーの天下となっています。
検察の起訴率低下の傾向や著しく低下した検察、警察の捜査現場のモラルはもう元には戻れないほどです。
また、法務省も平成5年の犯罪白書で日本の交通犯罪犯罪の実刑率が世界と比べて、著しく低く、フランスなどのヨーロッパ諸国の10分の1、アジアの国韓国と比べても4分の1であると指摘しています。
世界の中でも恥ずかしいほどの処罰率といえます。
こういうおよそけじめのない日本の交通事故の制裁システムでは悪質な事故はますます増加するし、飲酒運転のドライバーも反省をするわけがありません。
しかも処罰の上限はたった5年です。交通死遺族は事故から5年あるいは10年経っても苦しんでいるのが実情です。一生苦しむ人もいると思います。
刑の体刑を真剣に考える時期に来ているのだとおもいます。刑を変える必要があるのです。
フランスやイギリスでも日本と同様に車の台数が増加して悪質な飲酒運転も増加しているということです。これらの国では、厳罰化を国の政策として掲げ、最近でもフランスでは、飲酒運転で死亡事故を起こした場合、法定刑を2倍にしており、、イギリスでも悪質な運転に対し、厳罰化しています。アメリカでも酔っ払って死亡事故を起こせば、刑が8年や10年が当たり前と聞いています。
東名高速の悲惨な事故は日本の交通事故の法定刑があまりにも軽いことを示す一つの例です。
この際、業務上過失致死傷罪の5年の法定刑を2倍に引き上げ10年とするべきであります。
近代国家の趨勢として、死刑や体刑が望ましくないというのであれば、罰金額を引き上げるべきです。上限の50万円でも加害者は痛くも痒くもない金額です。1800万円を上限とするドイツ並みとまで行かなくとも、せめて、上限を1000万円とすべきだと思います。50万円はあまりも安すぎます。
また、現行法の刑の選択制は罰金か禁固刑科によって、不公平感が強く、また、罰金の刑としての効果はあまりないと思われますので、併科刑とすべきです。体刑としての刑を低くするのであれば、併科刑とすべきは当然です。
以上。