2005年5月12日 木曜日 中日新聞朝刊の記事です


遺族突きつけた真実 母の事故死 4年目の立件
豊橋 目撃者捜し当て新証言

 交通事故で母親を失った愛知県豊橋市の男性が、加害者が不起訴になったことに疑問を持ち、現場に何度も足を運び、目撃者捜しに走り、検察審査会の議決を経ずに再捜査へと動かした。事故から四年目の今年二月、加害者は業務上過失致死罪で略式起訴となり、三月に罰金刑が確定した。男性は「交通事故は“死人に口なし”。加害者の供述がすべて事実になってしまう。でも、必ず真実は明らかになる」と強い口調で語る。

 男性は同市菰口町の会社員山本圭司さん(五七)。母親静枝さん=当時(七九)=が二〇〇一年十一月三日夕、自宅近くの市道を歩いて横断していたところ、軽トラックにはねられ、全身を強く打って死亡した。加害者(三二)は業務上過失致死容疑で書類送検されたが、翌〇二年三月、不起訴処分となった。
  検事の山本さんに対する説明では、母親が夜間に紺色の上着を着ていた上、雨が降って見通しが悪かった点などから業務上過失致死罪での嫌疑は不十分だったという。しかし、山本さんは、事故五日後に加害者が山本さんら遺族に事故現場で話した衝突位置と、検事への供述との間で大きな食い違いがあることに気付いた。山本さんは供述内容の信ぴょう性に疑問を持った。
  “真実”を探すため山本さんは目撃者捜しのビラを張り、住民や救急隊員らからの聞き取りを進め、事故直後の状況を目撃した近所の住民を割り出し、証言を取ることができた。見取り図を作るため深夜、巻き尺で道路を測りもした。この結果、供述が違っているとの確証を得て検察審査会(名古屋地裁豊橋支部内)関係者に相談。名古屋地方検察庁豊橋支部に申し入れした方がいい、とのアドバイスを受け、同支部に事情を説明した。
  警察の補充捜査が始まり、山本さんが発掘した目撃者からの聴取などが新たに行われ、〇三年一月、本格的な再捜査となった。新たに担当した警察官も山本さんの熱意に押され、十回以上も現場に足を運んだ。
  再捜査の結果、衝突地点が当初の供述より十メートル前後、手前だったことが判明。再度の実況見分を繰り返し行い、発見の遅れによる前方不注意が立証された。
  罰金刑が確定したとはいえ、加害者が保険会社任せにした姿勢や、生命を奪いながらも罪が軽いことなどについて、山本さんは今も憤りを隠せない。「私の経験が交通事故の発生抑止につながれば、との思いだけ。それが母の供養になると信じている」と話している。

交通刑事事件に詳しい愛知教育大・山上博信講師(刑事訴訟法)の話
  交通事故で不起訴になった場合、検察審査会の不起訴不当議決を経て再捜査になるケースがほとんど。議決を経ても再捜査は難しいのに、議決を経ずに検察が動くのは珍しい。遺族の目撃者探しから得られた新事実が大きく影響したのではないか。