◇「ひき逃げも厳罰」、強く求める遺族
宮城県多賀城市で飲酒運転の車が仙台育英高の生徒の列に突っ込み3人が死亡した事故で、仙台地検は12日、運転していた解体工(26)を危険運転致死罪で起訴した。99年に東名高速で起きた幼女2人死亡事故をきっかけに、01年の刑法改正で最高懲役20年の同罪が新設されたが、無謀運転による事故は後を絶たない。同罪の検挙件数は減少傾向だが、その背景には運転手の危険運転に対する認識を立証しなければならないハードルの高さがある。酒酔いをごまかすための悪質ドライバーの逃げ得を許さないため、遺族らはひき逃げ事件の厳罰化も求めている。【河嶋浩司、渡部宏人】
◇飲酒の検査逃れ、関係者供述…
多賀城市の事故で、解体工は「運転代行を頼むべきだと思った」ほど酔っていた。しかし所持金が4000円しかなく、「危ないな」と感じながらも運転した。危険運転致死傷罪適用の典型的ケースだった。しかし、同罪適用には故意に危険運転したことが必要で、立証に困難も伴う。
千葉県松尾町で2月5日夜、中学の同窓会帰りのいずれも59歳の男女がひき逃げされ4人が死亡した。翌日朝に自首した土木作業員(31)が、業務上過失致死傷容疑などで逮捕された。
逮捕時のアルコール検知は、呼気1リットル中0・03ミリグラム。道交法上の酒気帯び運転の基準0・15ミリグラムを下回った。作業員は「カップ酒1本を飲んだ」と供述したが、千葉県警は発生から11時間近く経過後の呼気の数字としては高いとみて捜査。その結果、友人宅で発泡酒など3杯、日本酒5〜6合を飲んだことを突き止め、危険運転致死傷罪などでの起訴に結びつけた。
しかし、公判廷では同罪適用の可否が真正面から争われている。先月19日の初公判で作業員は「正常に運転できないほどのめいてい状態ではなかった」として、危険運転の故意を否認。懲役5年以下の業務上過失致死傷罪適用を主張している。
刑法は(1)アルコール・薬物の影響で正常な運転が困難(2)進行制御が困難な高速度(3)運転技能を有しない(4)妨害目的の運転(5)赤信号をことさら無視−−の5類型を危険運転行為と規定する。
警察庁によると、飲酒運転の場合は「ハンドルを思うように操作できない」など容疑者の認識や、「足がふらついていた」「運転をやめるよう注意された」などの事実認定が必要とされる。容疑者が認識を否定する場合は、関係者の供述が不可欠だ。捜査幹部は「酒を飲んだ店の店員が飲酒運転を知っていても、それを認めれば自らもほう助など共犯に問われかねない。同乗者も同様だ。本人が故意を否定した場合の立証は難しい」と語る。
危険運転致死傷罪の適用件数は▽02年322件▽03年308件▽04年270件と減少している。しかし、悪質なドライバーが減っているとは言えない。飲酒運転取り締まりの際に検査機器を壊したり、その場で酒を「重ね飲み」して運転時の酔いをごまかす検査拒否・検査逃れは02〜04年、年間500件前後検挙され続けている。警察庁幹部は「いくら罰則を強化しても、違反承知でハンドルを握るドライバーへの効果は疑問だ」と嘆く。
◇02年322件→04年270件、適用減少
99年に酒酔い運転のトラックに追突され乗用車が炎上、娘2人を亡くした井上保孝さん(55)夫妻=千葉市=の訴えが、危険運転致死傷罪新設に結びついた。夫妻は今、ひき逃げ事件の厳罰化を求めて活動する。「危険運転致死傷罪が飲酒運転根絶の抑止力になればと願ったが、加害者が逃げて飲酒などの立証を困難にし、適用を逃れる例が多いから」という。警察庁によると、04年のひき逃げ事件は1万9960件で、00年の1万4050件から42%増えた。
03年に鹿児島県名瀬市で飲酒運転の工員(21)の車にひき逃げされ、24歳の二男を失った大分県の会社役員(53)は、検察官の言葉に驚いた。「危険運転致死で無罪より、業務上過失致死で有罪になったほうがいいでしょ」と言われたのだ。工員は缶ビール十数本、焼酎4杯を飲んで事故を起こし、車を隠して逃げた。業過致死と道交法違反(ひき逃げ)では両罪が併合されても最高懲役7年6月だ。検察官は業過致死などで起訴し判決は懲役3年。会社役員は井上さん夫妻らと今年5月、署名15万人分を添えて法相にひき逃げ事件厳罰化の要望書を提出した。
北海道旭川市の山下芳正さん(50)夫妻は03年、19歳の長男を事故で亡くした。長男の友人の元短大生が雨の中、制限速度40キロの道を約100キロで乗用車を運転し、カーブを曲がり切れず街路灯に激突、助手席の長男が死亡した。別の同乗者が「速度を落とせ」と元短大生に注意もしていた。業過致死容疑での書類送検に、山下さん夫妻は納得できず、危険運転致死容疑で元短大生を告訴した。旭川地検は04年3月、危険運転致死罪で起訴。1審判決は懲役2年10月で、札幌高裁が今月、被告側控訴を棄却した。山下さんは「しっかり捜査してほしかった」と話す。
交通事故被害者の支援に取り組む松本誠弁護士は「危険運転致死傷罪が適用されるべき事故は年間1000件を下らないはずだ。捜査を徹底してほしい」と求めている。
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◇過去5年間の交通関係事件の送致状況◇
検挙件数 業過致死傷 重過失致死傷 危険運転致死傷
00年 812639 810388 2251 −
01年 845909 843670 2239 −
02年 840189 837579 2288 322
03年 856117 853333 2476 308
04年 864839 862132 2437 270
毎日新聞 2005年6月14日 東京朝刊