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[2006年 10月 1日]
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現場から記者リポート:待っているのは悲痛だけ /滋賀

 ◇「被害者にも加害者にもならないで」

 ◇自分のモラル省みて−−TAVで「事故撲滅」を訴え

 ◇友人の居眠り運転で長男亡くした父

 福岡で幼児3人が犠牲になる飲酒運転事故が起こって約1カ月。日本全国で飲酒運転を非難する声が高まり、県内でも取り締まり強化や、公務員の処分の厳罰化などが進む。しかし、それだけで事故は防げるだろうか。県警によると、06年度上半期の県内の死亡事故のうち、飲酒運転が原因のものは約7%。一方、脇見など前方不注視は約33%を占める。交通事故そのものをなくすためには何が必要か。友人の居眠り運転で長男を亡くし、TAV(交通死被害者の会)に入って交通事故根絶を訴える田中博司さん(56)に話を聞き、その姿から被害者の抱える「痛み」と、「事故のない社会」への答えを探った。【近藤希実】

 ■時間の止まった部屋

 部屋には、生活感があった。読みかけの雑誌。出しそびれたハガキ。プリンターに入れたままの印刷用紙。今にもトントンと階段を上がる足音が聞こえてきそうな雰囲気。しかし、2年前に23歳の若さでこの世を去った部屋の主・幹弘さんはもう戻らない。

 04年9月5日午前2時23分、友人の居眠り運転で、車は路肩に追突。助手席に乗っていた幹弘さんはまともにコンクリート壁に激突した。「心肺停止状態です」。病院に駆けつけた両親は耳を疑った。ほんの4時間ほど前、友達の買い物に付き合うと言って家を出た幹弘さん。病院から抱きかかえるように竜王町の自宅に連れ帰った冷たい手や足は、「僕らの体温で一瞬暖かくなる。でも、すぐ冷たくなってしまって……」。

 「家の幹になるように」と願いを込めて名付けた息子。車いじりが好きで、新車に自分でカーナビゲーションシステムなどを取り付け、完成を喜んでいたさなかの事故。走行距離はたった100キロだった。

 ■社会への訴え

 すべてを失ったようでどうしてよいかわからず、被害者支援の場を探した博司さんは、インターネットでTAVを知った。「息子のところへ行きたい」ともらし、うつ病にかかっていたとし子さん(51)を強引に誘って会合に参加。同じような境遇の人たちと話して、ようやく少し「心が癒やされた」。

 まずは刑事裁判を納得いくようにと言われ、博司さんは裁判を傍聴、意見陳述もした。「運転免許を持っている人の責任はいったい何なのか。居眠り運転を防ぐ方法はいくらでもある」

 幹弘さんが明日にでも帰ってくるような気持ちを引きずりながらも、博司さんは「息子のためにも交通事故撲滅を社会に訴えていきたい」とTAVの活動を続けた。「声を上げられるごく一部」の被害者の声を社会に届けようと、全国の犯罪被害者で作る「生命のメッセージ展」の県内での来秋開催にも力を注いでいる。

 ■一人一人の意識改革を

 しかし、博司さんの思いとは裏腹に、悲惨な事故は後を絶たない。今年県内で起きた人身事故は28日までで7336件。負傷者は9723人、死者は65人にのぼる。事故は1時間に1件の割合であり、1・5人が死傷している計算だ。

 普段は人ごとと考えがちな交通事故。しかし、「被害者になってからでは遅い」と博司さんは語気を強める。戸籍に書かれた「×」の文字。片付けられないままの部屋。頻繁によみがえる、息子がつなぎを着て庭を歩いているような錯覚。「あのつらさは、何とも言えない」

 技能だけで免許を取れる今の制度下では、運転する人のモラルが問われることはない。しかしその陰で、「多くの被害者が声にならない悲痛な声を上げている」。連日続く飲酒運転報道も、「一時的なもので終わらせてしまったら意味がない」。今こそ、車を運転する一人一人が「自分のモラルを省みるべきだ」と、博司さんは訴える。帰らない主を待つ、時間の止まった部屋。そんな悲しい空間を、これ以上増やしてはいけない。

毎日新聞 2006年9月30日

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