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遺族の願い「ゼロ」:交通モラルハザード/下 「罪を自覚する機会がない」 /滋賀

 ◇裁判は弁護士だけ、賠償は保険会社

 渡る必要のない道路を横断したはずがない−−。5年前の事故で、次男隆行さん(当時26歳)の命を奪った加害者の男の言葉を、西田由美子さん(61)=草津市=は直感的に「おかしい」と感じた。

 03年3月13日午後8時過ぎ、大津市内の県道を自転車で走っていた隆行さんを乗用車ではねた歯科医師の男は「急に横切ってきた」と釈明。しかし、隆行さんが通勤で毎日通っていたその道は、反対側に渡ると歩道がなくなって走りづらい。刑事裁判は3回の審理で男の主張通りに終わり、「真実は明らかになっていない」と思い、由美子さんは06年6月、民事で提訴した。

 由美子さんは「車道に出て、そのまま前を向いて走っていた」と証言する目撃者を探し出し、交通事故の鑑定士2人に依頼して「後ろからの衝突だった」と証明した。通常は1年程度で終わる裁判は2年を超え、弁論も14回に及んだが、隆行さんが「急な横断」をしていなかったことが認められた。

 刑事判決が覆るのはまれなだけに、由美子さんは「夢のようだ」と涙ぐむ。損害賠償を求め、実質的には加害者本人ではなく、契約する保険会社と争う民事裁判に、抵抗がなかったわけではない。近年、加害者の尋問も行われるようになってきたが、義務ではなく、基本的には裁判は弁護士だけで進む。他の多くの遺族が「金が欲しいんやろ」と中傷を受けた話も聞いていた。

 それでも、「息子のためにできることは何でもしたかった」。郵便局(当時)の採用試験に合格し、翌月からの勤務を控え、制服の採寸も終わっていた隆行さん。結婚を考えている女性もいた。

 その未来を奪ったのに男は逮捕もされず、刑事裁判で執行猶予4年の刑を受けただけ。賠償金を払うのも保険会社。直接の謝罪も一度もない。「加害者が自分の罪を自覚する機会が今の社会にはない。心は晴れません」。悔しさを押し殺し、由美子さんは語る。その胸に、男が刑事裁判で話した「一生かけて償います」という言葉が、むなしく響いていた。【近藤希実】

毎日新聞 2008年11月28日 地方版

 
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