「今までの裁判官は起訴状を見たら有罪と思っている。それを早い段階で少しでもこちらに(被告に有利に)戻すのが、公判前整理手続きです」。11月14日、東京で開かれた法律家団体の集会で、村木一郎弁護士は、さいたま地裁の裁判員裁判の弁護人を務めた経験を踏まえて、強調した。
公判前整理手続きは初公判前に裁判官、検察官、弁護人が集まり、証拠や争点を絞り込む制度。裁判員裁判では、法律知識のない裁判員に限られた時間で理解してもらう立証が必要となり、05年11月施行の改正刑事訴訟法で導入された。
弁護側には「検察側は、被告に有利な証拠を隠す」と不信感が強かったが、同法に証拠開示の規定が設けられ、検察側の証拠が有利・不利を問わず、弁護側が入手しやすくなった。村木弁護士は「弁護人に武器が与えられた」と評価する。
しかし、逆に足かせもある。公判前整理手続きの終了後に、新たな証拠を裁判所へ提出しようとしても、「やむを得ない事由」がなければ、原則認められない。この制限も審理の迅速化のためだ。
これを巡っては法廷で分かりづらい運用もみられる。9月29日からの4日間、福島地裁郡山支部で審理された殺人事件の裁判員裁判。弁護側が男性被告による遺族へのわび状を新たに証拠採用するよう求めた。裁判長は認めなかったが、検察側が請求した前科を示す書面については採用した。いずれも裁判長は公判前ではなく審理が始まってから証拠提出する理由を法廷では尋ねなかった。
傍聴していた五十嵐二葉弁護士は、対応が分かれた訴訟指揮を不可解に感じた。「理由が分からない。(制度が)全く機能していない」と批判する。
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今月4日、奈良地裁で、強姦(ごうかん)致傷事件の公判前整理手続きが行われた。101号法廷の傍聴席には、被害者の女性の代理人を務める女性弁護士が座り、裁判官や検察官、弁護人らのやり取りに聴き入った。質問はできないが、裁判長から被害者の意向について尋ねられることもあり、「それで結構です」と受け答えしていた。
刑事裁判への被害者参加制度は、被害者や代理人の弁護士に、公判への出席を認めている。しかし、公判前整理手続きに出席できるという規定はない。あるベテラン弁護士は「東京地裁の裁判官から『出席は認めない』と言われた」と明かす。奈良地裁の措置は異例とも言える。
非公開の公判前整理手続きで争点から除外された事実関係は、公判段階で明らかにされることはなく、被害者からは「事件の全容を知ることができなくなるのでは」との声も上がる。今回公判前整理手続きに出席できた女性弁護士は「争点整理などの経緯がすべて分かり、十分理解した上で被害者に説明できる」と評価する。
しかし、慎重論も根強い。被害者参加制度の創設に向けた法制審議会刑事法部会では「(被告が否認し)被害者が重要な証人になるような時に証拠を見てもらっては困る」と公平性を懸念する意見が出された経緯もある。
今後、出席を希望する被害者代理人が増えることも予想され、運用や制度のあり方が問われる。=つづく
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公判前整理手続きは、裁判員法施行(5月21日)に先行して導入され、裁判員裁判の対象でない事件についても、裁判所が検察側や弁護側の意見を聞いた上で適用することができ、経済事件などでも用いられている。非公開で行われ、被告本人の出席も認められている。
刑事裁判への被害者参加制度は、08年12月の改正刑事訴訟法施行で導入された。対象事件は殺人や傷害致死、性的暴行、交通死傷事故などで、裁判員裁判の対象事件と重なるケースもある。被害者や遺族、代理人の弁護士が、検察官を通じて裁判所に参加の意向を伝える。許可されると、法廷では検察官の隣に座り、被告らに質問できるほか、検察官とは別に求刑を意見として述べることができる。
毎日新聞 2009年12月21日 東京朝刊