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【フォーカス】自主返納高いハードル 交通網未発達…手放せぬ免許証
増加傾向に歯止めがかからない高齢運転者による交通事故を防ぐため、警察と自治体が推進する免許証の自主返納制度。返納者にはバスやタクシーの料金割引などのサービスが与えられるが、車以外の交通網が未発達な東北地方では、それも高いハードルになっている。「高齢者にとって車はつえと同じ」と警察関係者。返納を促すために知恵を絞るよりも、事故を起こさせない実質的な工夫が求められているといえそうだ。(中村翔樹)
仙台市泉区の無職、日野哲雄さん(80)は数年前、当時勤務していた建設会社から宮城県庁に向かう途中、トラックと正面衝突し、鼻骨骨折などの重傷を負った。日野さんが反対車線と気付かずに逆走していたのが事故につながった。
「時間帯によって通行車線が変わる(リバーシブル車線)道路だった。途中で車線を間違っていることに気付いたが、車線変更が遅れてしまった…」
宮城県警によると、平成20年中の高齢運転者による事故件数は1376件で、ほかの世代が減少傾向にある中、10年前の約 1.6倍に増加。ほかの東北各県も同様の傾向で、少子高齢化が進む今後、事故数はさらに増えていくことが予想されるという。
ただ、高齢者にとっては簡単には免許証を手放せない事情もある。日野さんは事故当時、妻と2人暮らし。自分しか免許証を持っていなかったこともあり、「大けがをしても、車を手放すことはまったく考えなかった」。退院後に新たに車を購入し、その後も退職までの約3年間、運転を続けたという。
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返納の「対価」となるサービスに魅力を感じないという声もある。
65歳以上の返納者にタクシー料金を1割引きする秋田県横手市に住む無職、高橋昭男さん(67)は「返納による優遇は知っていたが、1割程度の割引では、日常的には使えない。運転技術の衰えも感じないし、当分は乗る」と話す。
東北管区警察局によると、東北6県の免許証自主返納者数と、その中の65歳以上の高齢者の割合はともに増加傾向にあり、20年は前年比でそれぞれ約3倍に増えている。それでも未だ、免許証を所持している高齢者は約95万人にのぼる。
今月15日から、自主返納した高齢者の日帰り入浴料を 300円割引するサービスを始めた作並温泉旅館組合(仙台市)も“空振り”を実感しているという。森谷寛組合長は「周知不足もあるだろうが、客足が伸びたということはない」。同様のサービスは、秋保温泉旅館組合(同市)も昨年12月から実施しているが、「目に見える効果はまだない」と漏らす。
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「高齢者が車に乗るという選択は尊重しなければならない」と話すのは、宮城県加美町危機管理室の猪又健室長。県警加美署管内の同町と色麻町では昨年10月から、70歳以上の運転免許所持者を対象にした運転技術講習を試験的に始めた。
講習は自動車教習所で行われ、約2時間にわたって運転実習や適性検査を実施。6000円の受講料の半額を両町が補助している。今年度分はすでに定員に達し、来年度からは定員を 100人程度に増員する予定だという。
両町では70歳以上で交通事故を起こした場合、加美署に講習の受講を促してもらうなど、協力態勢を構築している。高齢者から車を運転する権利を奪うだけでなく、いかに事故を起こさせないかという観点から模索を続けている。猪又室長はこう呼び掛ける。
「目的はあくまでも事故数を減らすこと。一定の年齢に達してからも運転を続けるのであれば、こうした講習を通じて自分の運転技術を把握し、安全性を確保してほしい」
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■運転免許証の自主返納制度 高齢者の事故防止を目的に平成10年から導入。14年からは免許証に代わる公的な身分証として使える「運転経歴証明書」を発行している。東北管区警察局によると、東北各県の20年中の65歳以上の免許証返納者は、青森 292人▽岩手 150人▽宮城 544人▽秋田1173人▽山形 490人▽福島 616人。総数では、前年比で約3倍に増加している。
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